-4th style EB Edition-
[漫画] バトル漫画の与太話(絶対能力と相対能力)
 ちょっとだけ漫画の話をします。これはバトル漫画を考える上ではそこそこ使える考え方だと思うけど、整理して語られているところを一度も見たことがないので、ここにさらっとメモ書きしておこうという程度のものです。現時点ではメモ書き以上のものではありませんが。


 バトル漫画には様々な能力が出てきますが、それらはその性質で大別すると二分することができます。「誰に対しても常に効果が発揮される能力」と、「相手によっては効果が通用しない能力」です。ここでは便宜上、前者を絶対能力、後者を相対能力と呼ぶことにします。

 絶対能力の例としては、最近一番有名になったものとして「DEATH NOTE」のデスノートの殺人能力などが挙げられます(いきなりバトル漫画としては異端な例ですが)。あの能力は誰に対しても等しく効力が及ぶので、ノートに名前を書かれた者は誰であろうと死亡します。なので相手が孫悟空のような超人であろうと(たぶん)この能力で倒すことが可能です。このように、絶対能力の最大の特徴は使用者と対象者の地力差は能力の効果には影響しないことです。他に「ジョジョの奇妙な冒険」のクレイジー・ダイヤモンドの治癒能力、「エム×ゼロ」のM0なども絶対能力の典型的な一例として考えられるでしょう。

 それに対して相対能力の代表的なものには「DRAGON BALL」のかめはめ波があります。当たった物を大きな力で破壊する強力な攻撃能力ではありますが、力のない者が使った場合、直撃しても上位の実力者には通用しないことが多々あります。使用者と対象者の地力差が能力の効果に大きく影響するのが相対能力の最大の特徴というわけです。他の例としては「金色のガッシュ!!」のザケル、「DRAGON QUEST -ダイの大冒険-」のメラゾーマなども挙げられます。

 以上が絶対能力と相対能力の定義です。では以下、それを少しずつ掘り下げていきます。まず、それぞれの利点と欠点を考えます。


 絶対能力によるバトルの利点は、なんといってもパワーインフレに陥りにくいところです。「強い奴を倒すには力で上回るしかない」という事態を回避できるので、作品世界の強さ基準が安定し、初期と終盤で戦いの次元が別物に変化するといったことは起きにくくなります。また、強弱の比較が部分化するので、弱いキャラが活躍しやすいのも利点のひとつでしょう。そしてそれに伴い、単純な力押しだけではなく、その能力を最大限に引き出すための戦術が必要となるので、必然的に頭脳バトル的な方向に作品を牽引することができます。

 しかし絶対能力によるバトルの欠点として、バトルやルールが複雑化しやすい、厳密性が高いレベルで要求されるといった点があります。相対能力によるバトルならば「すごいパワーを持っている相手だから勝てない」と一言だけ説明すれば済むところを、絶対能力によるバトルの場合は「この能力ではこういう理由でダメ、この能力ではこういう理由でダメ」といちいち理屈付けて説明しなくてはなりません。さらにそれによる説明過多・セリフ量の上昇がバトルのスピード感を削ぎやすいという面もあります。また、ややこしいルールが複雑に絡み合うパターンが多いため、作者の情報処理能力・論理的思考能力が高くなくては描きこなすことができません。

 それに対し、相対能力によるバトルの利点は何よりシンプルなところです。強さのバロメーターが一元化されているので、説明が非常に簡単かつ大雑把で済み、その分のキャパシティを他の要素に割くことができます。また、パワーだけを強調すれば強さに十分な説得力を持たせられるので、見た目の格好良さや、ド派手な画面で爽快感を生むこと、スピード感を得ることも容易です。作者側としても、あまり頭を使わなくても描けるというメリットは大きいでしょう。読者側にしてみても、イメージ・共感しやすい能力は決してマイナスとはならないはずです。

 ですがその代償として、相対能力によるバトルはパワーインフレとマンネリ化を招きやすいという大きな欠点を抱えています。強さが一元化しているので個性を出しにくく、以前より大きな脅威を描くためには以前より大きなパワーの持ち主を描くしかないからです。その結果どんどん敵の強さと派手さを増してゆくしかないので、強さの次元が凄まじいスピードで変化してゆきます。また、基本的にパワーの強調説明を行なわなくては強さを説明できないので、その演出の幅も限られ、長く続けているうちに同じようなパターンの演出が繰り返されることになるでしょう。


 次に、絶対能力・相対能力と作品との関わり合いをバトルシーン以外の面から考えてみます。

 絶対能力は、基本的に非現実的な超常能力によるものとするしかないので、それを描くには独自のルールが存在する作品世界を作り上げなくてはいけません。そのため作品傾向としては必然的にファンタジー寄りになります。我々が住んでいる世界と同じ全くルールを持った世界を舞台にすることができないのです(現実世界を舞台にしていても、そこには必ずファンタジックな要素が加わります)。ゆえに描ける方向性が大きく狭まり、バトル漫画以外のジャンルに応用することが難しくなるでしょう。しかし逆に言うならば、バトル漫画というひとつの枠を深く突き詰めていける可能性のある要素であるともいえます。

 それに対し、相対能力は絶対能力とは異なり超常能力によらなくても能力を存在させることが可能なため、描けるジャンルは多岐に渡ります。特別な世界設定を用意しなくても良いからです。そして「強い奴は強い」という現実に即したルールを持つ能力のため、別に超人バトルに限る必要はなく、普通の喧嘩やスポーツ勝負にも応用できるので、強さの基準を自在に設定できるのも大きなメリットです。このような要素としての広範な汎用性(もしくは世界観の邪魔にならないこと)が作品構築の上での最大の武器といえるでしょう。しかし逆に言うならば作品要素が浅く広くなる危険性も孕んでいるので、バトルだけに注目するようなマニアの視点で見ると物足りなさを感じやすいかもしれません。


 とりあえず今回はここまで。続きはもう少し考えが深まってから書きます。ちなみにこの記事の重要なポイントは「絶対能力・相対能力ともに良い点もあれば悪い点もある」というところなのでそこだけは留意しておいてくれると助かります。「ハンター」や「ジョジョ」のような上質なバトル漫画は、そのへんを上手く使い分けて両者の良いとこ取りを行なっているものですし。マニアなバトル漫画読者(≒マニアな少年漫画読者≒いい年になってもまだ少年漫画を読んでる大人読者)の場合は、絶対能力による頭脳戦ばかりを賛美し、相対能力による単純なバトルを貶す傾向にありますが、前述したようにそれぞれ良し悪しがあるので、もう少し広い視野を持つともっともっとバトル漫画を楽しめると思うのです。
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by hpsuke | 2007-09-15 22:04 | 漫画
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