[雑記] 小物小説 053 スイッチ・オン
みんな気がついていないだけなのです。
それは透明で、しかも触ることができないから、誰もそこにあることを知らないのです。だからわからないのも無理はありません。しかし、私にははっきりとその存在が感じ取れます。あるのです。それは確かにそこにあるのです。 それは頭の上にぷかぷかと浮いています。どうして浮かんでいるのかはわかりませんが、実際に浮かんでいるのだから仕方がありません。そもそも、それは透明なのだから、浮かんでいても当然なような気もします。比重はたぶん空気と同じくらいなのではないかと思います。 ええ、それが、人を死に至らしめるのです。 といっても、それ自体が直接悪影響を及ぼすわけではありません。それはあくまでスイッチを押すと点るランプのような存在でしかありません。だからそれは生きている人の上にも、さも当たり前のようにぷかぷか浮かんでいます。私の上にも、あなたの上にも浮かんでいます。恐れることは何もありません。スイッチを押さない限り、それはいたって無害なのですから。 ならば問題は、スイッチがどこにあるのか、ということになるとお思いでしょう。何かの弾みに押してしまったら大変なことになりますからね。しかし、実はそれすら大した問題ではないのです。なぜなら、私たちが自分でそれを押すことはできないからです。イキモノはそういう構造になっています。スイッチはほとんどの場合、私たち自身ではなく、彼らによって押されてしまうのです。 そう、本当の問題は、彼らなのです。常に彼らがスイッチを押し、それを点灯させ、私たちに死を与えるのです。だから一番考えなくてはならないのは、いかに彼らを遠ざけるか、もしくは味方につけるかということなのです。 しかし、彼らはどこにでもいるし、しつこくまとわりついてくるので、その全てを回避することはまず無理でしょう。もしできたとしても、その時点でその人はヒトと呼べる存在ではなくなります。彼らはヒトを殺しますが、しかしヒトは彼らなしでは生きられないのです。 彼らを味方につける方法、それはひどく単純な話です。まっとうに生きれば良いのです。それで問題の九割が解決します。だから、彼らがあれだけの数であちこちを蠢いているのに、これだけの人が生き残っているのですよ。みんな心で理解しているのです、彼らを敵に回してはいけない、彼らに逆らわずに生きていくのが最善であると。 ああ、ようやく私の話を理解していただけそうで何よりです。それとは何なのか、彼らとは誰なのか、ここまで言えばそろそろわかりかけてきましたよね。そうです、私は最初から何も複雑な話はしていません。誰にでも身に覚えのある、ごく当たり前の法則を説いただけです。それが私には形として、システムとして見えるというだけの話だったのですよ。 え? ならば、スイッチを押すのは彼らだけではないのではないか、ですって? いいえ、そんなことはありません。先程も申し上げたように、スイッチを押すことができるのは彼らだけです。仮に私たちが自分自身の意思でそれを押すのだと自分で思い込んでいても、実際は彼らに唆されているだけなのです。私たちは常に彼らによって殺されます。例外はありません。それは思い上がりというものですよ。 ふふふ。怖いですか? そうですよ、彼らの正体に気がついた者なら誰でも、今こうしていることすら怖くなってくるものです。だって、今もあなたの死角で、彼らのうちの誰かがあなたのスイッチを押そうと機を伺っているのかもしれませんからね。でも大丈夫ですよ、あなたのそれは、まだ透明なままですから。ふふふふふ。 でも、できればあなたにも、それが点灯する瞬間をぜひ一度見せて差し上げたいものです。その光はこの世のものとは思えないほど美しいのです。形状は似ていても、天井のあの蛍光灯の光などの比ではありませんよ。見ているだけで涙が出てくる……。この悦びを他の人と分かち合えないのが本当に残念です。一度でも目にしたら、きっと、病み付きになるというのに……。 でも、もっと美しいものがあるのではないかって、最近そう思うのです。他の人のそれでさえ、あんなにも神々しいというのに、なら私自身のそれが点灯したら、一体どれほどの輝きを発するのでしょうね。だから私は、死ぬ時は大きな鏡のある部屋で、正面から鏡と向き合って死のうと思っているのです。ええと、執行は二か月後でしたかしら? その時は、できれば望み通りに大きな鏡の前で、あなた自身の手で私のスイッチを押して、私の輪を点灯させてくだされば嬉しいですわ。ぜひ、ぜひ、お願いしますね。 (053 [輪] スイッチ・オン/終)
by hpsuke
| 2008-10-29 02:01
| 雑記
|
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