-4th style EB Edition-
[漫画] 『神のみぞ知るセカイ』の画期的な点/『神知る』における攻略とは何か
 『神のみぞ知るセカイ』は、誰がどう見ても否定できないほど濃密に二次オタク文化を前提にしたオタク漫画ですが、にもかかわらず、他の濃密なオタク漫画とはどこか違う、一種異様な空気を漂わせているように感じます。簡単に言うと、「入り口は狭いが、間口は広い」気がするのです。

 ぱっと見は明らかにオタ趣味丸出しで、やってることも実際オタ趣味丸出しではあるのですが、それに一旦慣れてしまうと、オタでなくても(ヒロインにさして興味がなくても)普通に読めてしまう。他の濃密なオタ漫画にありがちな、オタ以外には魅力が理解できないような、本質的な部分での排他感があまり感じられないのです。

 間口を広げている理由はいろいろあると思いますが、今回はシステム的な面から、ちょっと考えてみたことを書いてみます。



 まず結論を最初に述べてしまうと、従来のギャルゲーと『神知る』では、そこで行われていること(ヒロインの攻略)は同じでも、その内実は全く正反対です。従来のギャルゲーは、「ヒロインを落とすことが目的で、そのための手段としてヒロインの悩みを解決する」形になっていますが、『神知る』では「ヒロインの悩みを解決することが目的で、そのための手段としてヒロインを恋に落とす」形になっています。この手段と目的の逆転が、『神知る』を従来のギャルゲーとは別の意味を持つ作品に仕立てているのではないでしょうか。



・ギャルゲーと「ヒロインの悩み」

 そもそもギャルゲーにおいては、ヒロインを攻略する際、そのとっかかりとして、「ヒロインの悩み」を主軸に据えることが多いです。特に、主人公のパラメータが物語に影響しないような、いわゆる紙芝居型のギャルゲーではその傾向が顕著でしょう。それはもはや通常考えられるような悩みの範疇のみに留まらず、強烈なトラウマを抱えていたり、不治の病に冒されていたり、下手をすると人間ですらなかったりと、もうやりたい放題です。まぁ、これらは極端な例だとしても、ギャルゲーのヒロインは悩みと共にあることがさも当然であるかのように扱われています。一般的にリア充と呼ばれるような、心身ともに充実し、完全に自立したタイプのヒロインはあまり出てきません。

 この点については、桂馬自身、『攻略ってのは、悩みを聞かないことには始まらない』『「悩み」はボクらのキラカード 命かけても手にいれな!!』という格言を発していることからも明らかです。ギャルゲーのヒロイン攻略においては、「悩みの解決」というメソッドが主流となっており、実際に『神知る』はまさにそういう認識の上に立ち、「悩みの解決」と「恋愛関係の構築」を一本のラインにまとめ上げることで、各ヒロインの攻略を行っています。

 (ちなみに何故ギャルゲーにおいて「ヒロインの悩み」がこんなに普遍化しているのかというと、それはきっと、情けないオタクが感情移入しやすいタイプの情けない主人公が、それでもヒロインに対して一丁前に優位に立つためには、ヒロインの苦悩や、惚れた弱みといったような、決定的なウイークポイントがヒロイン側に必要とされるからではないかと思っています。弱い自分が優位に立つため、自らを高める方向ではなく、さらに弱いヒロインを相手にする方向にベクトルが向いているのです。まぁ、ギャルゲー理論にはあんまり詳しくないので、このへんは私の勝手な想像ですけど)

 この、「悩みの解決」という点に注目し、「ギャルゲーは攻略の過程でヒロインの悩みを解決する」という一般化を成し遂げたことが、おそらくこの漫画の非常に画期的なところで、この命題を応用・逆転することによって、『神知る』の根幹となる攻略のシークエンスが形作られています。



・『神知る』におけるヒロイン攻略とは何か

 ここで、少し話がずれますが、そもそも「攻略」とはなんなのか、ということにも触れておきます。『神知る』は基本設定として公式で「女の子を恋に落とすことによって心のスキマを埋める」と言っていますが、これは厳密には正しい表現ではありません。なぜなら、恋に落ちることと、スキマとなっている悩みを解消することは、「それとこれとは全く別の話」だからです。

 恋したからといって、父親との思い出を昇華できるわけでもないし、口下手が直るわけでもないし、自分に自信が持てるわけでもないし、家族との不仲が解消されるわけでもありません。もし恋に落ちただけであらゆる悩みが解決されるなら、世の中はもっと生きやすくなっているでしょう。この記事をご覧のみなさんも、自分の経験を思い返して考えてみてください。かつて自分が恋していた時、もしくは両想いとなって結ばれた時、それだけで当時抱えていた悩みがスッキリ消えてなくなりましたか? おそらく、そんなことはなかったはずです。

 また、恋に落ちることで直接スキマが埋まるのであれば、例えば攻略の序盤から好感度がMAXだった生駒みなみ(水泳部の中学生)は、キスする前に駆け魂が飛び出しているはずです。そうならなかったのは、スキマが埋まることと、恋することとは、根本的には違う次元の話だからでしょう。いくら恋をしたって、それが成就したって、それだけでは悩みは解決しないし、だからスキマも埋まらないし、駆け魂だって飛び出してきません。考えてみればごく当たり前の話です。

 したがって、ヒロインの攻略と称して桂馬が行っている行為の目的は、「女の子を恋に落とす」ことではありません。それはあくまで桂馬の発言や行動の説得力を高めるための手段であって、桂馬の行為の最終目標は、ヒロインが抱えている悩みの解消にあります。ヒロインは、恋をしてキスをすることにより、恋愛欲求が充足されて心のスキマを埋めているわけではなく、キスというショッキングな肉体的接触を機に、「この人の言うことを信じてみよう」という気持ちになって、それによって悩みを解消し、心のスキマを埋めているのです。

(恋愛という不安定な攻略方法が、桂馬の場合に限っては作中世界でも抜群の安定度を誇っている理由はここにあります。恐らく『神知る』世界には、本当に恋愛を使って頭の中を満たし、無理矢理悩みを忘れさせて駆け魂を出しているグループもあるのでしょうが、桂馬はそういったグループとは違って、恋愛以外の部分で根本的な悩みの解消を行っているから、心のスキマが再発しないのです)



・「悩みの解決」を目的とする意味

 さて、ここで話を戻して、最後に、『神知る』において、悩みの解決を主軸としていることの意味を考えてみます。

 攻略を「ヒロインを恋に落とす行為」ではなく「ヒロインの悩みを解決する行為」とすることによって得られる利点は、大きく分けると二つあります。ひとつは、必ずしも恋愛を行わなくても良いため、話の幅を大きく広げられるという点。もうひとつは、対象読者層をオタクに限定せず、もっと圧倒的に幅広い層にアプローチできるという点です。

 前者については、すでに恋愛要素皆無のエピソードとして、夏休みの帰省・墓場の幽霊編を行っているのが典型例です。あのエピソードにおける「ヒロイン役」は近所のおばあちゃんですが、当然、桂馬は彼女に対して恋愛を用いた攻略は行っていません。それでも話が成立しているのは、ヒロインとの恋愛ではなく、現実に即した悩みそのものが、もっと言うなら、悩みという不完全な要素を内包した現実こそが、『神知る』のテーマになっているからに他なりません。このように、恋愛ではなく悩みを主軸に据えることで、扱えるエピソードの幅が格段に増すというのが、第一の利点です。

 そして後者についてですが、もしヒロインと恋愛関係になることだけが主眼の漫画であれば、ヒロインとの恋愛関係に興味のない読者層は、この漫画を楽しむことができません。ましてここで行われているのは、一般的な「お付き合い」の話ではなく、ギャルゲー的な方法論に則った「攻略」です。それに共感し、のめりこめる読者層は非常に限られてきます。しかし、ギャルゲー的恋愛ではなく悩みの話であれば、悩みは全人類に共通するテーマであるからこそ、誰もが感情移入することが可能です。そしてこれこそが、冒頭で挙げた「なんとなく間口が広い」ことの理由なのではないかと思います。


 先に少し触れましたが、『神のみぞ知るセカイ』という漫画のテーマは、ゲームや2Dの世界ではありません。そういった理想の世界を鏡にして、現実という不完全な世界を覗き込むことです。攻略の目的がゲーム的な恋愛ではなく、現実的な悩みの解消であるというのも、つまりそれと根本では同じことで、結局この漫画は、「現実という強大な敵と戦う主人公・桂馬の物語」なのだ、ということを表しています。そういった意味で、この漫画は間違いなく少年漫画であって、従来のギャルゲーとはその点でもまた強く区別されて然るべきではないかと思います。
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by hpsuke | 2010-01-11 14:47 | 漫画
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