[漫画] 上下構造の変遷で見る「みつどもえ」のキャラ考察・その2
(その1はこちらから)
○杉崎みく 上位全11回・下位全23回 杉崎は上位に来る時と下位に来る時で傾向がはっきり分かれる面白いキャラです。まず上位に来る時ですが、なんと相手の中にみつばがいる確率が100%です(笑)。ついでに他のキャラにダメージを与えることはありますが、基本的にはみつばにしか絡みません。ガチカップルと嘯かれる所以ですね。 一方で下位に来る時はみつばに限らずいろんなキャラからの攻撃を受けています。みつばにからかわれるのが多いのはもちろん、ふたばの起こした騒動に巻き込まれることも、ひとはや千葉・松岡といったトラブルメーカーの被害に遭うこともあり、みつば相手以外では完全に受けに徹するキャラであることが伺えます。 このように上下構造で杉崎の行動を振り返ると、みつばと同様によく下位に回る受け皿キャラでありながら、そのみつば相手にだけは対等に渡り合う、という杉崎の性格と位置付けが如実に浮き彫りになります。平たく言うと、みつばと杉崎は立場が非常に似ており、似た者同士だから気になる、気になるからちょっかいを出す、というトムとジェリー以上の仲の良さが――まぁ、あんまり長々書いても野暮なので、これ以上はやめておきます。こんなことわざわざ言葉にしなくても、みんなきっと心でわかってるはずですよね! ○吉岡ゆき 上位全8回・下位全7回 吉岡はチーム杉崎の一員としてかなり出番の多いキャラですが、上下構造に絡んでくることは意外なほどに少ないのが特徴です。彼女が上下構造に名前を見せるのは、チームとして騒動に巻き込まれるのを含めて169話中14話しかありませんし、単独で話の構成要素に絡んできたことはたったの3度しかありません。基本的には画面の賑やかし、周囲のリアクション要員として配置されている向きがあります。 上位としても下位としてもここまで話に絡んでこないのは、やはり彼女の「恋愛妄想」という最大の特徴が、ある種の読者の目線と一致しているからでしょう。それも彼女は矢部っちのように下位から共感を呼ぶタイプの読者目線ではなく、輪の一歩外から関係性を眺める、もう少しメタ的な視点を担当しています。もちろんギャグ漫画なので彼女の妄想のスケールは読者以上にとんでもないことになっていますが、なんでもかんでも恋愛相関図的に見てしまうことは、読者である我々にもままあることだと思うのです。すぐ上の杉崎×みつばのように。 三つ子が常に上位に来ることを想定していた最初期には、三つ子のパワーを表現するため、主な被害者である矢部っちに読者視点が置かれていました。しかし上位・下位が入り乱れ、半ば群像劇的な意味合いを持つようになってきてからは、被害者の視点というより、一歩引いた場所から全体を眺める視点の方が作品にマッチするようになります。そういう意味で吉岡は、矢部っちから読者視点を受け継いだキャラであると言えるのではないでしょうか。その受け継いだ読者視点がよりにもよってカップリング的な視点というところが、実にギャグ漫画的ではあるのですが(笑)。 ○宮下 上位全1回・下位全12回 あえて空気を読まずに終始宮下表記で行きます。 宮下は基本的には吉岡と同様、出番が多い割に上下構造に直接絡んでくることは比較的少なめというキャラです。いつも背景にこっそり存在し、「一歩引いた場所からの読者視点」を担当しています。吉岡がカップリング妄想を受け持つ読者視点キャラであるならば、宮下はツッコミを受け持つ読者視点キャラ。このふたりが親友という設定も、彼女らが担当している役割と決して無関係ではない気がします(二人合わせて読者のメタファーになっています)。 ですが、宮下が吉岡と大きく違うのは、ひとはについてだけは積極的に絡みに行くという点です。毎度ひとはに対して上位のポジションを狙いに行きますが、簡単にいなされて下位に突き落とされる構図はすっかりお馴染みとなっています。なぜそんなに必死なのかは正直私も読み切れていないのですが(笑)、基本的に変態しかいないこの漫画の異常性を再認識するために、常識で挑んで返り討ちに遭うキャラが必要ということなのかもしれません。ならばどうして三つ子の中でもひとはばかりに執着するのかは、宮下じゃふたばに太刀打ちできず、みつば相手だと下位で競合してしまうからといった消極的な理由しか想像できませんが……。 ○松岡咲子 上位全11回・下位全2回 ふたばと並び、作中において非常に強力な権限を持つ暴走キャラ。作者公認の「6年3組で一番おかしな子」という二つ名に恥じない端迷惑ぶりです。当然ながら上位を受け持つことが圧倒的に多く、特にひとはに対しては天敵と呼んでも良いくらいの傍若無人な暴れっぷりを繰り広げます。ある意味「手に余るキャラ」なので出番は少なめですが、彼女が下位に来たのは144卵性(ラブレター回)と153卵性(イタコ回)のたった2回きり。他の登場回では、存在自体がトラブルの塊という、爆弾のようなキャラとして話を引っ掻き回します。 実は彼女は最初にモブから脱却し差別化されたクラスメイトで、ちょうど三つ子上位形式から現在の構図に切り替わる転換期に登場したキャラです。まぁ、当初は完全に頭のおかしな子の描写ではなかったのですが(最初はオカルト趣味を隠していましたしね)、それでも曲者のひとはがドン引きするくらいには強烈なパワーを備えていました。つまり、松岡がこんなに暴走を繰り返すキャラになった原点は、最初期の三つ子上位形式を崩すため、作者が三つ子に対抗できる強烈な力を持つキャラを欲したところにあるのではないでしょうか。それが徐々にエスカレートして手がつけられなくなり、今ではすっかりアンタッチャブルと化しているのは少々複雑な気分になりますが……。 ○佐藤信也(しんちゃん) 上位全0回・下位全18回 彼が本筋に絡む時は、完全に下位で固定されています(上位に来たことはかつて一度もありません)。相手は圧倒的にふたばが多く、しょうが隊による被害が主軸の話は意外に少ないのが特徴的です。しょうが隊に対する自衛策はしっかり講じてあるため被害は少ないが、ふたばに対してはガードが甘く騒動に巻き込まれやすい、という彼の性格付けがここから見て取れます。 なお、ほぼ下位キャラで固定されている理由は、容姿端麗・スポーツ万能・優等生という、作中において非常に優遇された設定になっているからだと思われます。そのままではスペックが高すぎて読者の反感を買ってしまいかねないので、受難キャラにすることで力の強さを相殺しているのです。そういう意味では矢部っちと同じような対処法が取られていますが、上下構造以外で背景として登場している時にはそのような軽減措置がとられていないので、結局トータルではハイスペックキャラという印象を受けます。つまり相殺が甘く、通常であれば読者視点を任せられていても不思議ではない「クラスメイトの男子」という立場であるにもかかわらず、読者視点キャラにならないのはそのせいではないかと思われます。 ○丸井草次郎 上位全4回・下位全8回 基本的には矢部っちや佐藤と同様に下位固定キャラで、誰かに対して余計な被害を与えることはほとんどありません。たまに騒動を自ら起こし上位に立つ時もありますが、大抵の場合、一番の被害者はいつも自分自身です。このあたりは実にみつば譲りで、自爆癖が見事に娘に遺伝している様子が、上下構造からも見て取れます(笑)。 彼は上下構造(騒動の中心)に直接絡むというよりは、その外側に位置して秩序を保つオブザーバーとしての意味付けが強く、そういう意味で、今回の考察の視点では測れないキャラです。三つ子の親らしさを出すため暴走癖はあるものの、それ以上に良識ある大人として描かれているため、彼の存在は作品自体が野放図に暴走してゆく事態を食い止める弁として機能していると考えられます(わかりやすく言うと、三つ子がどんなに暴走しても、躾のなっていない「クソガキ」に見えないのは、彼がちゃんと「親」をやっているからです)。 少年漫画の主人公は、強い精神性を表すため、往々にして我侭で独善的なキャラとして描かれることがあります。その傾向はとりわけこのような暴走系ギャグ漫画では顕著なのですが、にもかかわらず三つ子が読者にあまり悪い印象を抱かせないのは、みつばの自爆癖と同等かそれ以上に草次郎の存在が大きいからなのではないでしょうか。 ○千葉雄大(千葉氏) 上位全14回・下位全5回 千葉氏はどちらかというと上位寄りのキャラですが、彼の迷惑を蒙る下位キャラは実に多岐に渡っています。矢部っちにばかり絡むひとはや、みつばにばかり絡む杉崎とは異なり、浅く広く、が彼のキャラの大きな特徴です。強いて言うなら、彼と一緒にいることの多い佐藤が一番多くの被害を受けていますが、彼の基本ベクトルは女子いじりにあるため、そこまで佐藤に被害が集中しているというほどでもありません。 一方で下位になることは少なく、ここに彼のキャラとしての強さ(すなわち、彼のエロスにかける心意気の強さ)が表れています。ですが、エロスで千葉氏を上回るひとはや、エロスを受け止めてしまう和実さんに対しては基本的に歯が立ちません(55卵性でひとはを硬直させたのは、矢部っちが受けた被害の余波みたいなものです)。このように、千葉氏のパワーはそれほど強くないため、浅く広くな絡み方とも相まって、そこまで作中で猛威を振るうこともなく、それが結果として上下構造に登場する頻度の少なさに繋がっているものと思われます。 ちなみに、千葉氏はかわいい女の子ばかりの漫画でエロスを担当する男子という美味しいポジションなのにも関らず、今ひとつ本筋に絡むことが少ないあたり、「みつどもえ」という漫画の変態的な部分が良く出ていると思います。千葉氏のエロスは直球なのですが、この漫画のエロスはどちらかというと変化球なので、そのあたりの噛み合わなさが千葉氏の微妙な出番の少なさの原因となっているのでしょう。この漫画のエロスは、もっとこう滲み出るような(r ○佐藤が好きでしょうがない隊(しょうが隊) 上位全10回・下位全7回 しょうが隊は、その活動内容の絶大なインパクトから大暴れしているように感じますが、実際に回数を数えてみると、佐藤に対してメンバーが直接上位に立ったことはわずか5回しかありません(初登場パンツ見せ回、ドッヂ回、おがちんパンツ捨て回、消しゴム回、一郎太回)。また、(1)佐藤以外のキャラに対してベクトルが向くことが少ない、(2)ふたばにも絡むがふたばの方が強い、(3)一枚岩の集団ではないため内部のゴタゴタが多い、(4)他の男子に触れると腐るという決定的な弱点がある、(5)人数が多いため登場回数的にそれほど多くできない、といった数々の理由があるため、イメージに反して実はそれほど端迷惑な集団というわけでもないのが実際のところです。少なくとも危険性はふたばや松岡のような強力無比なトラブルメーカーには到底及びません。人数が多いことと、それぞれのキャラがしっかり立っていることから実際以上に目立っているものと思われます。 しょうが隊は、上下構造の変遷から言うと、佐藤や千葉氏が準レギュラーとして定着し、三つ子同士の関係性が今の形に完成した安定期に登場したキャラで、さらに話を広げるために変なクラスメイトを登場させよう、という思惑の元に生まれたものと推察されます(余談ですが、今は同じ意図で父兄キャラが登場していますね)。そういった意味で、三つ子を下位に引きずり下ろすために強烈なパワーを与えられた松岡や、さらに構造の安定化が進んでから日常描写を固める脇役として本格的にレギュラー入りした吉岡・宮下とは誕生の意義が異なります。出力の弱めなトラブルメーカーという微妙なポジションを与えられた理由は、恐らくこのあたりにあるのではないでしょうか。 以上、キャラ配置の変遷及び上下構造の変化という視点から、簡単に「みつどもえ」の各キャラについて考察を加えてみました。「初期構造」のサンプル数が少なすぎて比較分析ができなかったり、そもそもの母体となるデータ自体が私の主観によるものだったりと真面目な考察としては色々問題があるので、あまり本気にしないでいただきたいのですが、なんとなく楽しんでいただけたのなら幸いです。できることならしょうが隊の各メンバーや栗山先生、海江田先生も分析してみたかったのですが、いかんせん登場頻度が少なすぎて分析の意味がなかったので今回は割愛させていただきました。ほんと加藤さんを個別キャラ扱いできなかったのは一生の不覚やで。 分析資料:「みつどもえ」上下構造判断一覧表(Excel2000データ) どの話において、誰が上位で誰が下位と判断したかはこちらにまとめてあります。
by hpsuke
| 2009-12-23 23:28
| 漫画
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