-4th style EB Edition-
[漫画] 上下構造の変遷で見る「みつどもえ」のキャラ考察・その1
 8巻発売&アニメ化記念に。


 私はチャンピオンを読み始めてまだ一年半ほどしか経っていない新参読者で、初期の「みつどもえ」を読んだのは最近コミックスを購入した時が初めてだったのですが、今とはまるで違う絵柄作風には驚いてしまいました。みっちゃんが普通にサドガールだ! ふたばの出番がやたら多い! ひとはが想像以上に暗い! というわけで、初期から今に至るまでをがっつり読み込むことができたので、その間ぼんやり考えていた話をします。

 「みつどもえ」の一話のレベルにおける基本的な構造は、「○○が原因で××が騒動に巻き込まれる」という形になっており、そこには必ず「騒動を起こした者」と「巻き込まれた者」が存在します。ここでは「騒動を起こした者○○」を上位、「巻き込まれた者××」を下位と定義し、この上下関係の観点から各キャラの変遷について少し掘り下げてみようかと思います。



○全体的な構造の変遷について

 各キャラの考察に入る前に、まずは全体的な構造の話から始めますが、連載開始前から連載当初において、作者の桜井のりお先生はこの漫画の基本的構造を今とは全く違うものとして考えていたのではないかと私は考えています。現在では個性的なサブキャラも出揃い、三つ子が上位になったり下位になったりを繰り返して周囲と調和を図っていますが、恐らく当初はこういった形ではなく、三つ子が常に上位に来る形式を想定していたのではないでしょうか。三つ子が常に騒動の供給者(上位)となり、矢部っちを中心とした被害者(下位)がそれに巻き込まれる……という形式だったのではないかと私は想像します。

 どうしてそう思うのかというと、ひとつは実際に当初の話の作り方がそうなっているからです。例えば第一話はフルーツバスケットを題材にした話ですが、ここでは三つ子がそれぞれ好き勝手に暴れ回り、クラスメイトや担任の矢部っちは無抵抗に巻き込まれるという筋立てです。この頃は、今のようにみつばが自爆することも、ひとはが悶々と思い悩むこともありません。そうした役割は全て三つ子以外のキャラが受け持ち、三つ子はただただ周囲に迷惑と騒動を撒き散らす存在として描かれています。

 また、もうひとつの理由は、三つ子のキャラ設定が明確に「三つ子上位」の構造に合うようセッティングされていることです。女王様キャラで上位に立とうとし、実際にクラスメイトを椅子にするみつば。圧倒的なパワーで物理的な破壊をもたらすふたば。他人を寄せ付けないオーラで周囲を黙らせるひとは。いずれも誰かを困らせることはあっても、誰かのせいで困るタイプのキャラ付けではありません。こういったキャラ付けがなされているのは、三つ子が主体となって暴走を繰り広げるストーリーを見据えて設定が考えられたからであると考えられます。初期は三つ子が鼻つまみ者扱いされていたのも、周囲に迷惑をかけるキャラとして活躍させることを想定していたからでしょう。

 なお、そのように常に上位をキープするキャラは、読者の共感を呼びにくく、どうしても客観的に見られてしまうという欠点があります(例えば、そこでいじめが起こっていた時、人はいじめている方よりも、いじめられている方に感情移入してしまうものです)。そのため最初期は三つ子ではなく下位に相当する新任教師・矢部っちが読者視点キャラとしてモノローグを担い、その年齢に釣り合うヒロインとして栗山先生が配置されていました。

 しかし、そのようなキャラ設定が活きていたのも本当に初期の初期だけで、個性的なサブキャラの台頭とともに、三つ子は完全な上位の座から引きずり下ろされてゆきます。まず最初にみつばがふたばの勢いに負け、さらに栗山先生の天然ボケにも力負けし、そのままずるずると落ちていじられ役のポジションを獲得しました。続いてひとはが天敵・松岡の登場を機に少しずつ隙を見せ始め、一部の相手に対しては優位を保ちつつも、だんだん下位のいじられ役としても定着してゆきます。ふたばだけは例外的に上位ポジションを維持し続けているのですが、一巻が終わる頃には、この作品はすっかり「三つ子が騒動を起こす漫画」から「三つ子の周囲で騒動が起きる漫画」に変わっています。そして今では三つ子が被害者(下位)になる頻度も相当以上に高くなっているのはみなさんご存知の通りです。

 どうしてこのような方向転換がなされたのかは製作サイドのみぞ知るところですが、これについては、私は結果的には大正解だったと思います。先ほども書きましたが、上位のキャラは感情移入がしにくいため、それまでは三つ子のキャラは共感を呼ぶことができず、ただのウザキャラと紙一重の部分がありました。しかし下位の役割もこなすようになったため、読者の感情移入を誘うこともできるようになり、作中の他のキャラとの距離はもちろん、読者との距離もぐっと縮まったように思うのです(特にみつばは下位のいじられ役になってから本領を発揮するようになりましたね)。もちろん初期構造から変化してしまったがゆえに、「みつばがサドという設定が無意味化した」「栗山先生の出番がなくなった」「上位キャラのふたばが目立たなくなった」等の歪みは生まれていますが、それでもこの方向転換は作品を良い方向に導いてくれたのではないでしょうか。

 特にこの漫画の主人公は幼い小学生であるため、読者の視点的にはどうしても「大人から子供を見る視点」になりがちです。そこで主人公を下位に位置させることで、子供ならではの隙や欠点の多さがクローズアップされ、読者の視点とキャラの描き方がすんなり一致するようになったことはとても大きいのではないかと思います。もちろん下手に下位に回ると暴走系のキャラは勢いを削がれ、それが作品自体の勢いさえ殺しかねないというデメリットはありますが、「みつどもえ」は複数主人公制の利点を活かして上手く役割分担を行い、勢いを殺さずに読者の共感を得ることに成功していると思います。

 以上の話をまとめると、「みつどもえ」は連載前~連載当初は三つ子上位構造を想定した作品だったが、それが崩れて今に至っているのではないか、ということです。そしてその構造変化に伴い、各キャラの設定や作中での扱いにも変化が生まれ、それが現在の状況に深く影響を与えていると私は考えています。では以下、個別のキャラについて、上下構造及びその変遷という視点から簡単に考察してみようと思います。



○丸井みつば

上位全25回・下位全68回
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 初期構造の放棄に伴うポジショニングの変化を作中で一番強く受けているのがみつばです。彼女が上位に位置していたのは本当に連載当初の数話だけで、話数が10を数えるくらいからは下位キャラの位置が定着し、今では下位の役割を務める回数がダントツのナンバーワンとなっています。最近は上位に位置する機会自体がほぼ消滅し、まれに上位に復帰した時は、多くの場合において、自爆を除けば杉崎・矢部っち・ひとはの誰かが下位に位置しています。しかし杉崎・ひとは上位でみつば下位の話も同数以上あるので、最近のみつば上位回はみつば⇔杉崎、みつば⇔ひとは間の対等な関係を強調することに狙いがあるのでしょう。

 先も書きましたが、初期の上位サドガールだった頃のみつばはただの迷惑キャラでした。しかし下位の役割を担うようになってから、親しみやすさが一気に急上昇しているのが彼女の人気と出番の多さに繋がっています。見栄っ張りで唯我独尊なところは終始変わらないのですが、それが当初の女王様気質から精一杯の強がりにシフトチェンジしているのは上手い落としどころです。

 また、当初は存在しなかった雌豚属性が途中で付与されたのは、下位の役割を担うため、わかりやすい弱点が必要とされたからでしょう。同様にしてサド属性が消えたのも、上位でいる必要がなくなったからだと推察されます。ついでに言うと、たまに見せる優しく思いやりに溢れる面も、下位に定着し読者の共感を得られるポジションについたからこそ自然に出せるようになったのだと思います。


○丸井ふたば

上位全71回・下位全1回
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 ふたばはみつばと異なり、初期から現在にかけて性格こそ変化しているものの、立場的にはほぼ変化していません。彼女はとにかく作中において非常に強力な存在で、連載初期から今に至るまで、下位に位置することがありません(121卵性のしょうがない隊加入騒ぎの時、腹黒伊藤さんにいじられたのが唯一の例外です)。みつばやひとはと違い、彼女だけは未だに上位キャラをキープし続けています。天然で裏表がなくパワフルなキャラなので、下位に誘導できるような精神的弱点が見つからなかったのだと思いますが、それが作中での扱いに良い影響も悪い影響も与えているのが非常に特徴的です。

 良い影響は、出番と力を作中で最も両立させた積極キャラとして、作品の動的な勢いをつける役割を一手に担うようになったことです。他のキャラは上位に位置することはあれど、力が弱く騒動の枠を小さく収めてしまったり(千葉)、特定の下位キャラにしか働きかけなかったり(杉崎や松岡)と、作品自体の牽引役としては少々役者不足の感が否めません。そのパワー不足を補い、チョイ役としても主役としても積極的に行動し、動的表現で作品に子供らしい活力を与えるエンジンとしてのふたばの存在の大きさは計り知れません。

 一方で悪い影響は、なんといっても主役回があからさまに減ったことです。他のキャラが育ってきて上位を担えるようになってきたため、ふたばばかりが上位を受け持つ必要性がなくなったことに加え、ふたばは精神的にブレのないキャラであるため、みつばのように下位に回っていじられることもできません(中盤以降はどんどん幼児化してきているので、そのぶんますます揺るぎない純真なキャラになってきたとも言えます)。結果として、画面の賑やかしやサポート、騒動を増幅する役どころに回る機会が増えているのが現状です。

 正直な話、今のシステム的にはふたばの活躍する余地が少ないのが事実で、今の構造が続く限り、これからもふたばの出番が減ったままになることは避けられないと思います。ですが彼女には彼女にしか担えない役割というものがあるのは先に述べた通りなので、これからも名バイブレイヤーとして作品に活力を与え続けることもまた間違いないでしょう。


○丸井ひとは

上位全49回・下位全28回
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 下位位置で固定化したみつばとも、常に上位をキープし続けているふたばとも違い、ひとはは相手によって自分の位置がガラッと変わるという少し特殊なキャラです。具体的には、矢部っちやみつばに対してはかなり高い頻度で上位を独占する反面、ふたばや松岡が相手の時は必ずといっていいほど下位に回されています。ひとはは落ち着いていてクールな態度を崩したがらない反面、内心かなりコンプレックスが強く甘えん坊であるという強烈な二面性を持ったキャラです。それが上位にも下位にも固定されない立ち位置に明確に現れています。

 ひとはが上位に位置する時、それは大抵において彼女の甘えを表現しています。愚かな姉をからかうのも、童貞の矢部っちで遊ぶのも、ひとはの依存心の表れです。彼女は孤独キャラゆえ他人に甘えるのが苦手なのですが、それがため、ひとはの甘えは「上位のポジションから下位のキャラで遊ぶ」という歪んだ形で表現されます。例外が宮下を相手にしている時ですが、これはまあ、単にうっとうしいだけかもしれません(笑)。

 もっとも、最初の女王様気質がヘタレ強がりにスライドしたみつばとは違い、ひとはの甘えは初期から織り込み済みの設定だったと思われます(初期設定におけるひとはは他者に関わろうとしないキャラだったため、ひとはを上位に置く=誰かに能動的に関わらせるためには、この甘えの設定は必要不可欠です)。なので、仮に当初の路線が続いていたとしても、ひとははやがて下位ポジションを担当するようになっていたでしょう。むしろイレギュラーだったのは、それが発展して矢部っちフラグが立ちまくってしまったことですが、それが予想外に良い効果を生んでいるのはご存知の通り。さらに最近は人間関係も広がりつつあり、甘えを見せる相手(=いじる対象の下位キャラ)が増えてきつつあります。

 しかし甘えが武器として通用しない相手に対しては徹底的に守勢に回らざるを得ないのがひとはの大きな弱点で、強力なパワフルキャラであるふたば・松岡に対しては、甘えは隙へと変わってしまいます。隠れた甘えがあるということは心に弱い部分があるということであり、そのため強い精神性の持ち主に対抗できないのです。さらに矢部っちやガチレンジャー関連についても依存心が高まるあまり弱点に変化しつつある様子が見られ、その点で下位キャラとしていじられるようになってきたのも興味深いところです。


○矢部智(矢部っち)

上位全1回・下位全29回
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 矢部っちはふたばとは真逆に最初から現在に至るまでずっと下位の役割を担い続けているキャラで、はっきりいって一瞬でも上位に回ったのは89卵性(エイプリルフールの回)の一度だけです。基本的には登場するたびに常に誰かにいじられ、遊ばれ、誤解され、酷い目に遭い続けています。

 彼はレギュラー陣の中で数少ない大人であり、立場的に元々強い力の持ち主です。なので、もし彼が上位を担当するようなことがあれば、ただでさえ大きな力がさらに強化され、パワーバランスが崩れてしまうことは避けられません。ゆえに彼は受難キャラとして下位に回されることでバランスを取り、主人公の三つ子より前に出すぎないように配慮されています(これは佐藤・草次郎についても同様のことが言えます)。また、三つ子が常に上位に来る構図だった短期連載時代において読者目線の下位キャラとして想定されていたため、未だに上位に来ることがないのはその名残でもあるのでしょう。

 このように最初期は読者視点として下位の役割を一手に引き受けることで話を転がすことに貢献してきましたが、他のサブキャラが育ってきて、三つ子(特にみつば)が下位に下りてくることも多くなったため、以降は毎回のように下位を受け持つ必要性もなくなりました。かといって上述の理由で上位に回ることもできないため、少しずつですが出番が控えめになりつつあります。そういう意味では、ふたばに似たルートを辿っていると言えるかもしれません。

 しかし下位キャラが増えて出番が減る一方で、主人公の一人であるひとはの主な甘えの対象として駆り出される機会は相変わらず失われていません。この結果、必然的に出番全体に占めるひとはとのカラミの割合が他に比べて圧倒的に増加し、結果としてフラグが乱立するようになりました。これが、ここ最近「矢部ひと」描写が増加しつつある理由のひとつなのではないでしょうか(もちろん、桜井先生がノリノリで描いているのが最大の要因だとは思いますが)。


その2に続く)
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by hpsuke | 2009-12-23 23:21 | 漫画
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