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[雑記] 読書感想・宮部みゆき「模倣犯」
あらすじ:
 東京都・大川公園で女性の右腕とハンドバッグが発見される事件が発生。やがてハンドバッグは行方不明となっていた古川鞠子という若い女性の物と判明するが、直後犯人を名乗る声の持ち主から、右腕は違う女のものだ、とテレビ局に電話が入る。声の持ち主は鞠子の祖父・有馬義男も同様の手口で弄び、さらにはテレビ局の生放送番組にさえ出演、白骨死体で発見された鞠子に続き、条件次第で右腕の女性の残りの部分も返すと宣言。被害者や大衆をバカにしきった犯人の態度に世間が騒然となる中、男性二人の乗った車が事故で山中に転落した。車からは二人の遺体の他に謎の他殺死体が発見される。家宅捜索の結果、事故死した男の自宅から大量の証拠品が見つかり、彼が世間を賑わせる誘拐殺人事件の犯人だと判明する。これで事件は収束したかと思われたが……。


雑感:
 小学館から刊行された単行本では上下巻、新潮文庫版では五冊2500ページにも及ぶ分量を誇る超大作。何せ上のあらすじは文庫で言うところの第一巻分相当、あくまで第一部の抜粋に過ぎません。このあと犯人たちの過去を暴く第二部、そして事件がまったく新しい展開を見せる第三部と延々話が続いていくわけですが、ただダラダラと長いわけではありません。


 長い上に、もんっっのすごく重い……。


 宮部みゆきは、生活感や日常感の溢れる文章で、些細なことや細かい心情を逐一わかりやすく描くことを得意とする作家なのですが、この小説ではその丁寧さで地獄を描いています。罪もない被害者女性たちがどれだけ無残に殺されていったかを、残された遺族や知人たちがどれだけ苦しみもがいたかを、犯罪者遺族がどれだけ酷い目に遭い追い詰められていったかを、必要以上に懇切丁寧な描写で延々と描き続けるのです。それが恐ろしい。

 並の作家の作品なら、そのへんの「良く考えると重すぎて洒落にならない」描写は読者の想像に任せることが多いので、想像したくなければしなければ良い、という逃げ道が用意されています。しかしこの小説ではそういった負の描写が、何の誤魔化しも都合の良い省略もなく、悲劇そのものとして目の前に突き付けられ続けます。もう本当に、古川鞠子が、塚田真一が、有馬義男が、高井由美子が、そして名前も出されることなく殺されていった被害者女性達が可哀想で可哀想で見てられませんでした。昔、秋山瑞人の「イリヤの空、UFOの夏」を読んだ時のことを思い出したなあ。

 しかも、ただ辛いだけならまだ耐えられるのですが、この小説は先述したように長い。とにかく長い。読めども読めども地獄です。もちろん丁寧に描いているからこその長さなのですが、読者はその分の長距離を、延々と裸足で歩き続けなくてはなりません。

 そして、この小説は重いだけでも長いだけでもなく、この善良で不幸な人たちがどうなってしまうのか、最後は少しでも救われるのか、それとも絶望のどん底に突き落とされたまま息絶えてしまうのか、それが気になって気になってしょうがないのです。端的に言えば、面白くて止まらない。だから途中で重さに耐え切れなくなって放り出すこともできず、滅茶苦茶な不幸にあった人々にを延々と感情移入し続けなければいけません。それが何よりもこの小説の恐ろしいところだと思います。死ぬほど重い、しかも長い、でも止められない。どんな悪逆非道なコンボですかこれは。

 唯一の救いは、事件が起こる前の描写、彼らが破壊された生活がどれだけ平穏で幸せなものだったかについての描写が少なかったことでしょうか。高井家以外はあくまで事後から振り返る形で描かれるに留まっているので、そういう意味では過剰な感情移入をしてしまうこともなく、助かりました。

 というわけで、途中までは異様に読むのが辛い小説としか言いようがありません。しかしこれが終盤にさしかかり、いよいよ反撃のターンになってきたところで全く逆のベクトルを持つ要素に早変わりします。それまでが真っ暗で重く苦しく長い話だっただけに、それがひとつひとつひっくり返されてゆくのが本当に爽快で爽快でたまりませんでした。犯人達を追い詰める証言や物証が登場するたびに、オッケーいいねいいね! そう、その証言が欲しかったんだよ! などと変態気味興奮気味の喝采が頭の中で響いていましたからね(笑)。実はこの小説は「イリヤ」じゃなくて富士鷹メソッドを活用した作品だったんだよ!! というのは冗談ですが、結局最初から最後まで宮部みゆきの思うがままに翻弄され、その恐ろしさを味わった作品でした。ホンマ宮部みゆきは魔性の女やで。


総括:
 えー、というわけでまとめると、とても面白いけど、とても重い話ですよ、というところでしょうか。読み応え十分なお勧めの名作ですが、でも一度読んだらお腹いっぱいになるのも間違いないので、そのあたりの覚悟を決めてから読むのが良いと思います(現に私が読了後に読み返すことができたのは、解決へのカタルシスを感じられる五巻だけでしたからね)。私はもう当分、あるいはずっと再読しないつもりです。あ、それと研修中の暇潰しに持っていくのはお勧めできません(笑)。とんでもないパワーのある作品なので、そっちに全部呑まれちゃいますよ……。


 最後に。原作読破後、評判の悪さを知りつつ映画版も一応観てみました(主演がSMAPですから親がバッチリ確保してます(笑))。ここでは多くを語ることはしませんが、100点満点で採点するなら5点だったということだけは申し上げておきます。何かやりたいことや挑戦したこと、監督なりのメッセージなんかがあるのだろうとは思いますが、そういう事情を一切抜きにして単純に面白かったかどうかが重要なことなのだと私は考えるので。じっくり噛んで初めて味が出るタイプも嫌いじゃないけど、それにしたって口に入れた直後に吐かれちゃ意味がないだろうに。
by hpsuke | 2009-04-18 14:18 | 雑記
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